縁ある先生方からコメントをいただきました。
是非、ご一読ください。

 

『一億マイルの彼方から』開幕直前インタビュー!
佐藤正宗(作・演出)× 糸井幸之介(監修)

多摩美卒業制作演劇公演とは?

━━━ まず、多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科 卒業制作公演の枠組みを簡単に教えてください。

糸井:多摩美演劇舞踊デザイン学科は、演劇舞踊コースと劇場美術デザインコースの2つに分かれています。共通科目もありつつ、演舞コースは演技や舞踊などおもにパフォーマンスを重点的に、劇美コースは美術、照明、衣裳などスタッフワークを学びます。3年生の上演実習で、初めて両コース合同で短編オムニバスを学内上演。4年生で外小屋である東京芸術劇場をお借りして新作を上演するのが、ここ数年の卒業制作の形態になります。
一部の研究論文で卒業する学生以外の、演劇ゼミ、舞台美術ゼミ、衣裳ゼミの4年生全員で取り組むことになっていて、今回5期生は学生42名、指導教員や外部スタッフなどすべての関係者を含むと、70人ほどの座組みになりました。

━━━ 演目はどのように決まったのでしょうか?

糸井:学生の皆さんで話し合って企画を立ち上げることが特徴で、今回も希望者が企画をプレゼンして、話し合いを粘り強く重ねて決めていきました。どのような方法で決めるかから話し合っていくので、よくやるなぁ〜〜〜と思っていました。

佐藤:今年は8つほど企画が出ていて、複数人チーム制のところもあれば、ひとりでプレゼンする人もいました。僕はどうしても作・演出がやりたかったので、まず台本を最後まで書き上げて、「読んでおもしろいかどうかで決めてくれ!」とプレゼンしました。

━━━ 作・演出のご経験はあったのでしょうか?

佐藤:戯曲を書いたことはありますが、上演するのは初めてです。昨年3年次の上演実習で作・演をやりたくて、短編を4本書いてエントリーしたのですが、すべて落ちてしまいました。その時は出演者として関わって楽しく終われたのですが・・・。
演出は、PBL「タマリバーズ」という授業の企画でやらせてもらったことがあります。二子玉川ライズガレリア(駅前広場)で行うパフォーマンスなので、劇場公演は初めてですね。
大学生活では俳優をやることが多くて、舞台に関わる色々な役割を経験したいと思っていたので、糸井さんのFUKAIPRODUCE羽衣を、制作としてお手伝いさせていただいたりもしました。
コロナで自主公演が一度もできないまま4年生になってしまい、卒制がラストチャンスということで、今回はその気持ちをぶつけました。

労働者や貧困層を扱う作品に惹かれて

━━━ 執筆にあたり、マキシム・ゴーリキーの『どん底』に影響を受けたそうですね。

佐藤:僕、『どん底』という作品が大好きなんです。恵まれない貧困層の人々や社会的に隅の方に追いやられてしまった人たちが、ひとつの宿泊所で過ごす物語なのですが、『どん底』が放つ人間の泥臭さが気に入りました。
きっかけは、小林多喜二の「蟹工船」という小説なんですけど、労働者を扱う作品を読み漁るのがブームだった時期があって。その流れで『どん底』の戯曲を読んで、舞台も観てみたくて、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん演出の映像を観たりしました。
いつか僕も、美しいだけじゃない人間の泥臭さを演劇で表現したいなと思っていました。

糸井:僕も何年か多摩美の教員をやっていますが、マサムネくんは珍しいタイプというか、「演劇が好き!」という熱い気持ちが感じられる人。自分の若い頃を思い返しても、やっと最近、演劇にたくさんお世話になって演劇が素晴らしいと思えるんだけれども(笑)
マサムネくんはジャンルなどにこだわらず、勉強熱心にたくさん観たり読んだりしてるみたいですね。
演劇全般への愛情を感じられる学生だなと思います。

佐藤:僕は出身が長野の田舎の村で、高校演劇をやっていたのですが、なかなか演劇を見る機会がなかったんです。大きい興行も、松本か上田までしか来てくれなかったし。当時から役者をやってみたい気持ちがあったので、上京してからは演劇や映画をたくさん観るように意識してきました。最初は学ばなければという使命感だったんですが、観れば観るほど演劇が好きになりましたね。

地下と地上の対極構造で描きたかった世界

━━━ 『一億マイルの彼方から』は、ズバリどんなお話ですか?

佐藤:地下と地上、2つの異なる時間軸の世界が、ビデオカメラを持った「監督」の登場で、交錯していく物語です。
戯曲の初稿は、『どん底』の影響をダイレクトに受け、陽の光が届かない地下世界で暮らす労働者の話を書きました。でも途中で、地下世界だけだとどうしても物語が広がらなくて、地上を対極で描くことで、一つの物事を複数の視点で見つめ、より広い世界観を描きたいと改稿しました。
地下で暮らす人々は、ひたすら前に進む現代の物語として、地上で暮らす人々は、過ぎ去ってしまった過去の物語として位置付けています。
2つの世界を繋ぐ存在として「カメラのレンズ」をモチーフにしたのは、現代の人々はあくまでも傍観者であって物理的に介入することができない、タイムスリップものではないSFにしたかったから。
現実に僕らも過去のことは、レンズを隔てた記録でしか知ることができませんよね。
過去のものは過去のものとして、変えられない虚しさや無力さを表現しています。
地下の現在パートの人たちは、様々な異なる思想を持っています。
多様な考えをもつはずの人々が、いつの間にかひとつの価値観に取り憑かれてしまったり、気づかないうちにひとつの枠組にはめられ統一されてしまう。
時代や環境によって選択肢が狭まっていることにすら気がつかず、自分で選びとっているつもりが選択させられているようなひどい環境のなかでこそ浮かび上がってくる、「人間」の姿を描きたいと思いました。

「みんなでつくる」ということ

━━━40人ほどの学生の共同制作は、いかがですか。

糸井:多摩美の卒業制作演劇公演は、僕が言うのもおかしいけれど、本当に大変なんですね。まわりの声を聞いてバランスを取っていかなければならない演出の立場は特に、とても過酷なポジションです。
マサムネくんは、みんなの話に耳を傾けながら、それでも前に推し進めていく力強さを持っています。
自分が同じ年齢の時にはとてもできなかったな・・・と思いながら稽古を見ていました。

佐藤:まわりの人の意見を尊重するというより、彼らを信頼して頼っているといった方がしっくりくるかもしれません。自分の知らないこと、自分が気がつけない視点が絶対にあり、自分のやりたいことだけを表現しても、僕以上のものは出来上がりません。座組みのみんなのアイデアから浮かび上がってきたものを実現する方が、自分以上のものが出来上がるのではと思って、それは「信頼」という感覚に近いです。
学生という肩書きで卒制をしますが、僕自身は学生フィルターを意識していないです。もちろんプライベートで友人関係はあるけど、創作にはプライベートの感情を持ち込まずに、1人のクリエイター同士として付き合いたかったので。
学外のお客さんを招いてお金を取って公演する以上、いざ上演で恥をかくのは、それぞれ個人であるべきだと思いました。作品を作る責任は、セクションに関わらず等しく全員が負うべきというか。
稽古期間中、毎週1回カンパニーズデーという全体会議があって、そこで自分の気持ちはみんなに伝えて・・・受け止めてくれた気がしています。

━━━具体的にはどんな稽古を重ねましたか?

佐藤:まず最初に自分のイメージを丁寧に伝えて、全体で共有することに時間を使いました。
例えば地上パートの場合、床はどんな状態なのか。土で汚い場合、べったり座ることはしないだろうとか、逆にそこに四つん這いになることは屈辱的だろうなとか、場所のイメージを俳優たちと共有して、その場所でキャラクターたちはどのように振る舞うのかを、組み立てていきました。
舞台がどのような場所なのかということを共有するのは、当たり前だけど重要ですね。
キャラクターのディティールは、衣裳や持ち物で肉付けしています。持っている小道具や、物の使い方、衣裳の脱ぎ着などの動きにはどんな意味があるのか、言葉のやり取りで説明するのではなく、動きや装飾からも表現したいと思いました。
また俳優の演技は、まず100%がどこなのか見せてもらってから、引き算していきました。
演出を経験した「タマゾニア」が駅前広場という特殊な空間での上演だったので、俳優が自分で思っている以上の動きをしないと、お客さんにはまったく伝わらなかったんですね。俳優の意識と、観客が受け取れるものの差を埋めていくことが必要でした。
だからまず100%を知っておいて、客観的な視点を持って調節していくのが演出の役割なのかなと思います。

それぞれの未来に向かって

━━━公演が終わると、あっという間に卒業ですね。佐藤さんは演劇を続けていくのでしょうか?

佐藤:芝居以外のことは何も考えていません! どんなセクションでも、演劇に携わって生きていきたいです。でも今回は、制作部やスタッフたち皆さん仕事のできる人たちに囲まれて、恵まれた環境で創作させてもらいました。音響と照明はプロの方ですし、初めての劇場公演が東京芸術劇場であるということもそうです。なので、演劇をやりたい100%の気持ちに、自分の技量はどこまで追いついているのか、不安もあります。それはもう今後見極めていくということで、今のモチベーションをもとに、いろいろ手を出していきたいです。

糸井:卒業公演は大変ですけど、やっぱりすごく羨ましい部分もあります。小さな劇場では経験できない観客への伝わり方みたいなものが、東京芸術劇場ぐらいのサイズの空間ではっきりと、体感できます。特にマサムネくんのような演出担当の人は、今の年齢で1週間でもその感覚が実感できると、今後とても小さな劇場でやるときにも役に立つと思うし、もっと商業的なショーみたいな演出にも、きっと役に立つと思う。
これはそういう意味で、すごく羨ましい企画だなと、特に演出担当の学生に対して思いますね。なので、できればこれっきりだともったいない気がします。

━━━最後にみどころをお願いします。

佐藤:それぞれ異なった人間である27人のキャラクターたちが舞台上でどう生きるのか、お客さんに確かめていただきたいです。ラスト10分がみどころです!

糸井:みどころっていつも難しいので・・・学生たちへメッセージを。
これから本番を迎えて、お客さんという存在から受け取るものがたくさんあると思います。舞台上からなにかを受け取ってくれようとしている観客がいて、そこに向けてやっていくのが演劇だから、お客さんの存在をできる限り感じながら、本番を過ごしてほしいです。もちろん楽しんでほしいし、楽しめる準備をみんなちゃんとしてきていると思います。
そのためには、観客席にお客さんがいてくれないと、困っちゃいますから。少しでも興味が湧いてくれた方は、観に来てくれたら嬉しいなと思います。